目次
急性腎不全
急性腎不全の原因
腎臓自体の障害によるもの(腎性) ・感染(レプトスピラ症など)
・免疫が関わる腎臓の病気 ・腎盂腎炎 ・ショック ・中毒
腎臓への血流低下で起こるもの(腎前性) ・心臓疾患 ・熱中症 ・敗血症(血中に菌が増殖し臓器不全に陥った状態) ・出血 ・輸血 ・鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬) ・血管拡張薬 ・深い麻酔
尿を排泄できないことで起こるもの(腎後性) ・両側の尿管閉塞(尿管結石など) ・尿道閉塞 ・膀胱腫瘍 ・膀胱破裂
腎毒性のある物質(腎臓機能を低下させる物質)
・レーズン、ぶどう ・ユリ(花粉を舐めたり茎や葉、根をかんだりするだけでも腎障害を起こす場合があります) ・不凍液、エチレングリコール ・イブプロフェンやアセトアミノフェンなどの鎮痛剤 ・アミノ配糖体(抗生剤の一種) ・農薬、除草剤、重金属 ・鉛(鉛の入ったペンキなど)
急性腎不全への予防方法としては、腎毒性のある食物・植物や化学物質、人の薬(イブプロフェン等)などを誤って摂取しないようにすることです。
中毒性物質のひとつであるぶどうは、果汁100%のぶどうジュースを飼い主様の外出中に犬が舐めてしまい、激烈な急性腎不全が起き、尿毒症により短時間で亡くなった例もあります。
それらのものを犬の生活範囲内に置かない、または冷蔵庫など扉があり犬が開けられない場所にしっかりしまう、散歩中の誤食を避けるなど十分気を付けましょう。
犬が急性腎不全になってしまったら 犬が急性腎不全になった場合は、直ちに基本的には入院して集中的に治療が開始されます。 ・血中の電解質やpH(酸性度)の調整 ・腎血流量の確保と体内の水分バランスの正常化 ・利尿(尿を作らせる) 治療は輸液療法が中心となり、嘔吐などの症状を緩和する治療も行われます。 尿道が閉塞していたら、まず閉塞の原因を取り除くというように、急性腎不全の元になるような病気があれば、そちらの治療も行います。 急性腎不全では、ナトリウム、カリウムなどの電解質のバランスが崩れていたり、アシドーシスという血中のpH(酸性度)が異常になっていたりすることがあり、これらのバランスをもとの状態に戻すための治療が行われます。主に輸液中に必要な薬剤が加えられます。 また、輸液療法だけでは尿が十分につくられない場合、または水分が過剰になってしまった場合は利尿剤を使用します。 透析治療は、重度で治療に反応しない尿毒症等、重症の場合などに行われます。透析治療は腎機能不全により体に残っている老廃物を除去することを目的に行います。ただし、すべての動物病院で透析治療が行えるわけではありません。 急性腎不全は短時間で命を落とすこともある状態です。いつもと違う様子がみられる場合、また中毒になるものを誤食してしまった場合は、動物病院を受診してください。
急性腎不全の主な治療
・輸液療法 ・電解質補正 ・利尿剤 ・制吐剤 ・制酸剤(胃酸を抑える薬) ・消化管運動促進剤 ・透析治療
腎盂腎炎
犬の腎盂腎炎の原因
腎盂腎炎の原因はほとんどが細菌感染によるものです。感染症により腎盂(じんう)から腎臓全体に炎症が広がった状態です。それによって腎臓機能が低下します。
腎盂で細菌感染が起こる原因として最も多いのは、細菌性膀胱炎から細菌が腎盂にまで達することです。特に治療でなかなか治らない慢性の細菌性膀胱炎でよくみられます。
腎盂腎炎の症状
・元気低下
・食欲不振
・あまり動こうとせず寝ている
・発熱
・腹痛(特に腎臓の周り)
・背中を丸めるようにしている
・水をよく飲む
慢性の腎盂腎炎はこれらの全身症状も現れないことが多く、さらに分かりにくいことが多いです。
以下のような疾患によって免疫が低下したり正常よりも簡単に感染しやすくなったりすると、腎盂
腎炎の原因となる慢性細菌性膀胱炎や、腎盂での感染が起こりやすくなります。
・尿路結石
・クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
・糖尿病
・慢性腎不全
・免疫抑制剤やステロイドの長期服用が必要な疾患
・排尿障害(神経疾患など)
腎盂腎炎の検査
・触診 ※体を触って痛みや異常がないかを調べる
・血液検査
・X線検査
・超音波検査
・尿検査
・尿の細菌培養・感受性検査(外部機関に依頼)
※尿中に増殖している細菌の種類とどの抗生剤が有効かを調べる検査
犬の腎盂腎炎の予防方法
腎盂腎炎の予防方法は膀胱炎を早期発見し、治療をしっかりと行うことです。
細菌性膀胱炎になりやすい疾患の場合には、定期的な尿検査やおかしい様子が見られたら動物病院にすぐ連れて行くなど早めの対処を心がけましょう。
犬が腎盂腎炎になってしまったら
腎盂腎炎では、尿または前立腺液の細菌培養・感受性検査により増殖している細菌とそれに有効な抗生剤を特定できたら、その抗生剤で治療を行います。複数の抗生剤を服用することもあります。
さらに、腎盂腎炎によって起こった腎機能低下の程度に合わせた治療が行われます。
急性の腎機能障害が起きた場合は急性腎不全の治療を、慢性の腎機能障害には慢性腎不全に合わせた治療が行われます。
腎盂腎炎の治療
・抗生剤
・輸液療法
後遺症として、腎盂腎炎で起きた腎障害により、腎盂腎炎の回復後も慢性腎不全が残ることがあります。
ネフローゼ症候群
犬のネフローゼ症候群とは
ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体の障害により、いくつかの症状が現れている状態です。糸球体は、毛細血管の塊が球状になっており、糸球体を含んだネフロンが、ひとつの腎臓に、犬では80万ほどあるといわれています。 高度のたんぱく尿が長く続くと、ネフローゼ症候群になります。 ネフローゼ症候群を定義する症状は、 ・高度のたんぱく尿 ・低アルブミン血症※ ・腹水やむくみ ・高コレステロール血症 などです。 ※血中にあるたんぱく質の一種 ネフローゼ症候群の症状
・腹部が膨れる(腹水)
・足の先が冷たく、むくんでいる
・食欲がない
・元気がない
糸球体腎炎に関連する疾患
・犬アデノウイルス1型感染症
・細菌性心内膜炎
・フィラリア症
・ブルセラ症
・子宮蓄膿症
・敗血症※1
・腫瘍
・膵炎
・前立腺炎
・炎症性腸疾患(IBD)
・全身性紅斑性狼瘡※2
・糖尿病
※1:敗血症とは、血中で細菌が増殖し、多臓器不全などに陥っている状態
※2:全身性紅斑性狼瘡(ぜんしんせいこうはんせいろうそう)とは、まれな免疫疾患
一方、腎アミロイドーシスとは、アミロイドというたんぱく質の一種が腎臓に沈着して、障害を引き起こします。
ネフローゼ症候群の検査
・触診
・血液検査
・尿検査(尿のたんぱく/クレアチニン比を含む)
・X線検査
・超音波検査
・腎生検※
※腎生検とは、全身麻酔下で腎臓の一部を採取し、顕微鏡で組織や細胞の状態を観察する検査です。糸体障害にはさまざまな病態があり、その分類や状態の把握などに、腎生検が欠かせません。犬の状態などを含めた状況により、実際に腎生検まで行うのは難しいことも多い。
慢性腎不全
犬の慢性腎不全とは
慢性腎不全とは腎臓の障害とそれに伴う比較的穏やかな症状が徐々に進んでいく腎臓の病気です。
慢性腎不全は完治せず、元に戻らない進行性の病気で、治療の目的は少しでも腎不全の進行を遅らせることです。 正常な腎臓の働き
・体内のさまざまな物質の分解物(老廃物)、化学物質などの排泄
・電解質※1の調節(排泄)
・ホルモンの産生・分泌※2
・水分の調整や
・血液のpHの調整 ※1電解質とはナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、リン(P)などの体のさまざまな働きや状態を保つのに必要な物質で、腎臓の機能が低下すると電解質が高くなったり低くなったりすることで体内の働きをうまく維持できなくなり、症状としては元気や食欲の低下、さらには命に関わる状態を引き起こす事があります。 ※2腎臓はCaの腸からの吸収などを促す活性型ビタミンDや、骨髄で赤血球を作ることを促す造血ホルモンのエリスロポエチン、血圧を調整するレニンなどを分泌する臓器として重要な働きをしています。
慢性腎不全の症状
・尿量が増える
・水をたくさん飲む
・食欲が下がる
・嘔吐
・体重低下
・脱水
・便秘
慢性腎不全の原因
慢性腎不全の主な原因は以下のようなものが挙げられますが、慢性腎不全は急性腎不全とは異なり、原因がはっきり分からないことが多いです。
・老化による腎機能低下
・遺伝的要因
・自己免疫疾患
・他の疾患による腎障害※
・悪性腫瘍(しゅよう)
老齢犬では腎機能が徐々に落ちている中で内臓の予備能力も低くなり、環境や食事、他の疾患により腎臓の負担が大きくなり、腎障害の悪化が起こりやすくなるので注意が必要です。
他の疾患による腎障害では、急性腎不全や急性腎不全になりうる急性膵炎、子宮蓄膿症、熱中症などの全身疾患で回復後に慢性腎不全に移行することがあります。また、糖尿病も徐々に腎機能が落ちていき慢性腎不全になりやすい病気です。(人間の場合は腎臓病の原因で最も多い疾患です。)さらに過剰な塩分やたんぱく質を含む偏った食事も腎臓に負担がかかり腎不全になりやすくなります。
慢性腎不全の検査
・血液検査
・X線検査
・超音波検査
・尿検査
・尿蛋白(たんぱく)クレアチニン比
・BUNの上昇
重要な血液検査項目として、クレアチニン(Cre)は、腎臓機能25%以下に低下クレアチニン値が上昇します。BUNは血液中の尿毒素の量です。上昇すると尿毒症になり放っておくと死に至ります。
犬の慢性腎不全の予防方法
人が食べるような食事や犬のおやつなど過剰な塩分やたんぱく質ばかりの食事は腎臓に負荷がかかります。
逆にたんぱく質が少なすぎても腎臓の回復や体の維持に必要なたんぱく質が不足してしまうので栄養バランスの良い食事を与えましょう。
食事以外にも体や心にとって快適な環境を整えることも大切。
慢性腎不全は、早期発見し、経過観察や定期的な検査を行いながら早期治療につなげていくことが重要な疾患です。
中年齢から高齢になって来たら、健康診断で各種検査を行うことで、異常や予兆がないかを早めに発見できる場合があります。
犬が慢性腎不全になってしまったら
慢性腎不全は、治療を行っていても病状が進行します。もとに戻ることはない疾患です。
治療の目的は、慢性腎不全の進行を遅らせ、少しでも犬の快適に過ごせる時間を長くすることです。
慢性腎不全の治療は、腎不全のための低たんぱく、低リンの食事療法が主なものになります。
他には定期的な皮下点滴や腎臓の血管を広げる薬(ACE阻害薬)、療法食を食べている上でリン吸着剤を食事に混ぜて与えることもあります。
慢性腎不全の主な治療方法
・腎不全用療法食
・輸液療法(定期的な皮下点滴など)
・ACE阻害薬
・リン吸着剤
ACE阻害薬は腎臓の糸球体の動脈を拡張させ糸球体内の血圧を下げることで腎臓の保護作用がありますが高度に腎不全が進行すると使用は中止されます。また、犬によってはACE阻害薬を使用すると悪化することもあるので、投薬後1週間ほどで血液検査を行うこともあります。
慢性腎不全では、ずっとゆるやかに症状が進行するだけでなく、あるとき突然症状が急激に悪化する急性増悪(きゅうせいぞうあく)が起こることもあります。
急性増悪は急性腎不全の状態に近く、これが起こった時点で早期に集中的な治療を行えば急性増悪が起こる前の状態までに回復することも多いです。
また、早期から治療を開始した犬では、状態があまり変わらず治療の手ごたえが無いように感じられることもあるかもしれませんが慢性腎不全の治療は続けることが大切なので、不安や相談したいことがあれば獣医師や病院のスタッフに相談し、異常や悪化があればすぐに動物病院を受診してください。
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